ずっとずっと秘密にしていた事を告白します。
私が働き始めて、すぐの頃でした。22歳。 病院勤務のリハビリ科所属。
私は、ただの新人の女の子、でした。同期がたくさんいました。
ドングリたちの横一列のスタート。誰が特別にできるとか、できないとかでなく。
ただ、皆余裕なんてなく必死だったのでしょうね。そう思えたから、今書く事ができるのだと思います。「あなたを、許します。」怒っていた私を認めます。
そして、そんな私を許します。
さぁ、そんな訳で私の右手の薬指の話をしましょう。
くり返しますが、私は、ただの新人の女の子、でした。
私は作業療法士として、今目の前にいる患者様に少しでも良いから、喜んで欲しくて、今の自分を諦めてほしくなくって、必死で勉強したしその人の可能性を探っていた。
私の恥なんて、お構い無し。先輩に教えを乞い、同期や後輩たちにも少しでもプラスにつながる事があるならと、患者様の話を聞きに行った。
それは、プロとしては情けない話なのだろうが、そんな事よりも今、目の前の患者様が微笑んでくれるために、模索すべきものがあると信じていた。
ただ、信じたかった。「病気になったからといって、自分の全てを諦めなくても良いのだ」という事。
私は、ただそれを患者様に証明したかった。
私が新人だからといって諦めたくなかった。
気がつけば、休みの日は、全て研修、勉強会。仕事から帰ったら、当たり前のように本を開いていた。
寝ながら動作確認していたよ(笑)、と彼氏、今の夫になるのだが、に言われた事もある。 これだけやれば、上手くならないなんて事はなく。少しくらいは誰だって器用になる。
私からすれば、その程度だった。それなのに…。事件は起きた。
ある時、私がいつものように夜8時頃帰ろうとした時だった。当時の私のカバンは、おたくリュック。
その中に自分の医学書や道具を詰め込んでいた。疲れていて、中なんかろくに見ない。
あるべきところにあるだろうものを手探りで探す。そのつもりで、手を突っ込んだのがいけなかった。「痛っ…」 嘘だろ、そう思った。
昔のマンガかよ?!
右手から滴る血を見て、そう思った。
カッターの芯が、綺麗に割られて大量に入っていたのだ。
当然、カバンの中身は傷だらけ。
何よりも、技術職にとって手の怪我はシャレにならない。
おいおい、マジかよ?と青ざめた。
その日は、右の指の治療に何針か縫う羽目になった。「女の子なのに、何したの?」気をつけなよ?ドクターの言ってくれた、いたわりの言葉に悔しくて何も返せなかったのを覚えている。
次の日から、右手の薬指の包帯は目立ってしまって。「先生、その手で大丈夫なんですか?」うちのおばあちゃん、ちゃんとみれるんですか?「大丈夫ですよ。」笑う。
力いっぱい虚勢をはって。苛立ち、抜糸も済んでいないのに包帯をとる。
1回1回の患者様ごとに私達の職業はアルコールを手にふいたり、手を洗うのだがどちらもよくしみたのもよく覚えている。
その度に、誰やもしれない犯人に苛立ったものだ。当然、病院なんてものは病気の温床。 綺麗な訳もなく。手洗いのたびに、いちいち消毒処置なんてしてられない。
次の患者様があるから、待たせる訳にもいかない。案の定、右の薬指は化膿した。
「手…、大丈夫?」いよいよ患者様に心配され、腹立しさを通り越して情けなくなる。笑う。指は熱を持ち、よく腫れた。曲がらないほどに。
笑え。絶対、泣き言なんて言ってやるもんか。平気だ。何の問題もない。ただの強がりだ。
ひどい、滑稽な、今の自分を認めたくなかった。あれから、そういう陰湿な嫌がらせは何度かあったが、カッターに関してはあの1回こっきりだった。
怒りは私の原動力だった。負けたくなかったのだ。それは今の今までもそうだった。けれど、もう手放そうと思う。
怒りを。
怒りは何も生まない。
私は、これからの未来をハッピーに向かわせようとしている。そこに怒りのエネルギーなんて不要だから。
私は、これから先を進むよ。 仲間とともに。 私はあの時のように1人じゃない。
さよなら、あの時の感情。
ありがとう、本当に感謝してる。
おかげで次に行ける。
安原 望
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